アプローチ紹介

顧客分析をはじめよう
~新規顧客獲得編~

顧客分析をはじめよう

顧客分析をはじめよう

IoTデバイスの普及に伴うビッグデータの爆発的な増加により、一昔前と比較してデータを分析する機会は増大するばかりといえるでしょう。それに合わせて現在、人工知能(AI)を含む多種多様なデータ分析ツールが世の中にあふれています。
一方、これからデータ分析をはじめよう!とお考えのみなさんにとっては、情報が非常に多いために何から始めればよいのか、どのツールを選択すればよいのかを悩まれることもあることでしょう。
当レポートでは、データ分析の代表的なテーマの一つである「顧客」を対象した顧客データ分析に焦点を当てて、どのように顧客分析を進めれば良いのか、について解説をしていきます。

さて、顧客分析と一口にいっても、その中にもさまざまなテーマが存在します。大きなテーマとしては、次の3つのテーマがあるでしょう。

「ヒトの分析」

  • 新規顧客の獲得
  • 併売・クロスセル
  • 顧客の離反防止

企業にとって、「顧客」といっても大きく分けると2つのタイプの顧客が存在します。既に自社のお客様として存在する既存顧客と、これからお客様になっていただく新規顧客(未購入者)です。データの分析の観点から言えば、既存顧客を正しく把握した上で、その情報・知見を元にして新規顧客へのアプローチに活用するのが定石となります。
その上で、企業が行う、顧客分析は、新規に顧客を獲得するための顧客分析、続いて既存の顧客へさらに自社製品やサービスを導入・購入してもらうための併売・クロスセルのための分析、そして自社顧客と長期間にわたり関係性を維持するため顧客の離反防止を行うための分析となります。
これらのいずれのテーマについても顧客データを活用することにより、それぞれの課題についてデータから有益な知見を得ることができ、最終的には売上・利益の向上、そしてコスト削減を実現することが可能になります。特にこの回では、「新規顧客の獲得」におけるデータの利活用についてその方法や利用すべき道具などについてご紹介をしていきます。

顧客データ分析による「新規顧客の獲得」

新規顧客の獲得におけるデータ活用の具体的な例をご紹介します。

顧客データ分析のメリット

顧客データ分析のメリット

そもそも顧客データを分析するメリットとは何でしょう?決まった数社の顧客との取引で商売が成り立っているような企業であれば顧客を理解する必要はないかもしれません。しかしながら、多くの場合、売上そして利益を継続的に上げる必要があります。そのため、顧客に商品やサービスを継続的に購入して貰う必要があり、そのために顧客のニーズを探求し、それに合わせることによって利益を得ようと活動をしているはずです。そのため、顧客を理解することは現代のビジネスにおいては、必須の行為と言えるでしょう。その顧客を把握する行為においてデータを活用することにより、より客観的に効率的に現状の把握とニーズの発見を行うことができるようになるのです。

「誰に購入してもらっているのか」「なぜ顧客は商品を購入してくれるのか」などを正しく理解すれば、企業は商品やサービスをそれに合わせて仕入れて販売したり、製造業であれば開発すれば良いのです。つまり、「顧客」の分析を行うということは、自社の売り先をしっかりと把握し、売上・利益を確保するために現代のビジネスにおいては必須といえるのではないでしょうか。

新規顧客獲得のための顧客分析のステップ

それでは、「新規獲得のための顧客データ分析」はどのように始めればよいのでしょうか?
新規顧客獲得のためのデータ分析の手順としては、次のステップがあげられます。

  • 1 既存顧客の販売データから優良顧客を特定
    1 既存顧客の販売データから優良顧客を特定
  • 2 優良顧客のプロファイル(特徴)を把握
    2 優良顧客のプロファイル(特徴)を把握
  • 3 新規顧客ターゲットの設定
    3 新規顧客ターゲットの設定

はじめに自社にとっての優良顧客を特定することからはじめましょう。これは、今までの販売データからRFM分析やでデシル分析を利用することにより特定することが可能です。さらに優良顧客を分割・セグメンテーションすることにより、より最適な優良顧客を発見します。最後にどの対象にアプローチをするかを決定しましょう。この手順を行うことにより新規顧客獲得においてデータを活用し、施策につなげることが可能になります。

なぜ新規顧客獲得を行うのに、優良顧客を分析するのか?それは、優良顧客はあなたの会社の商品やサービスを一番知り尽くしている人たちです。彼らを理解することは、皆さんの会社が顧客ニーズをしっかりと捉えるのに役に立つためです。つまり、優良顧客と同様の顧客を、新規顧客から獲得することにより、より良い顧客を得ることができるようになるわけです。

優良顧客特定の分析についてさらに手順を見ていきましょう。
一般的に、優良顧客分析には以下のステップを踏んでいきます。

  • Step-1

    優良顧客の識別(RFM/デシル)

  • Step-2

    優良顧客をさらに細分化(セグメンテーション)

  • Step-3

    優良顧客のセグメントごとの利益性の把握

  • Step-4

    優良顧客セグメントのプロファイリング

  • Step-5

    顧客ランクの遷移の把握

まず優良顧客を識別する必要がありますが、その際に良く利用されるのが、デシル分析やRFM分析です。デシル分析は、例えば累積購入金額順に顧客を十分割して、優良顧客を特定する方法です。デシル自体は、子供の頃に習ったデシリットルなどと同じ10という単位ですね。方法としては、データを小さい順もしくは大きい順にならべ、10等分するよう9つの分割点を作成するということになります。それぞれ10%目、20%目、30%目と分割するポイントを作成することにより把握することができます。合わせて累積の購入金額を把握することにより、自社の上位顧客の寡占度や各デシルの平均値などを出すことにより、売上や来店日数などの数値の項目をさらに細かく把握することができます。

RFM分析は、デシル分析を応用して顧客を、R(直近購入日、F(購入頻度)、M(購入金額)という3つの指標で分類する手法です。それぞれ5つもしくは3つくらいのランクに分け、それぞれのスコアを算出します。R、F、Mのそれぞれのランクを組み合わせて111〜333、もしくは555といようにスコアを割り出して優良顧客を把握する手法です。
3つにランクをわけるのであれば、3×3×3で27通りのスコア、5×5×5であれば125通りのスコアが算出されます。スコアを算出した後は、デシル分析同様、それぞれのスコア、例えば555スコアの購入金額、購入点数、来店頻度、購入回数などの値や平均値などを算出し、他のスコアと比較したりしながら把握を進めていきます。

変換前のデータ
変換前のデータ
変換後
変換後のデータ

これらの方法により、「優良顧客」を識別していく作業を行います。
「優良顧客」は、基本的には購入金額が高い顧客層と考えて良いでしょう。しかしながら、その定義は企業によって異なる場合もあるでしょう。頻度が高いお客様こそ優良顧客という企業があっても不思議ではありません。これらの作業を行うことにより、自社にとって「良いお客様」とはだれなのか?という議論が起こるでしょう。これこそ、データドリブンの経営や営業、マーケティングの第一歩です。データを元に自社を振り返り、意思決定に活かすわけです。

優良顧客をさらに細分化・クラスタリングを実施しよう

優良顧客をさらに細分化・クラスタリングを実施しよう

続いて分析を進めてみることにしましょう。続いて実施するのは、優良顧客をさらに細分化してみようということです。いわゆるセグメンテーションを実施するということです。優良顧客が識別できたのだから、そこに営業なりマーケティングをかければ良いのでは?と思われるかたもいらっしゃるでしょう。

しかしながら、良く考えてみてください。優良顧客はあくまでも金額や来店頻度や直近購入度というシンプルな指標での優良顧客です。この指標だけでも良いのですが、多くの場合、優良顧客についてもいくつかのパターンが存在します。みなさんの会社でも考えてみてください。もし単品だけを販売しているだけということであれば状況は別ですが、大抵の場合、商品ラインナップやサービスは多く存在するはずです。また、単品だけであっても販売価格が年中定価で、かつ季節性もないという商売は少ないでしょう。それはつまり、同じ「優良顧客」であっても、いくつかのパターンが存在するということです。

そのパターンを発見するための分析手法がクラスタリングといわれる手法です。このクラスタリング手法は先程のセグメンテーションを数理的に行うための手法といえます。どのように分類すればよいのか。一概には言えませんが、購入している商品を元にしてクラスタを作成することが一般的です。もしくは商品ごとに季節性があるのであれば、時系列でクラスタリングを作成するということもできるでしょう。さて、クラスタリングを行うにはどのようなデータを持っているべきなのでしょうか?

クラスタリングのための必要なデータ

クラスタリングを行う際には次のようなデータが必要になります。見慣れないデータかもしれません。これはPOSデータなどから作成が可能なデータの形式です。POSでは、商品の購入ごとに1行のデータとなるデータでした。今回は、優良顧客だけをまず抽出し、その顧客の購入の様を軸としてセグメントを作成していきます。そのため、今度は顧客ごとに1行のデータを作っていきます。このデータの場合、顧客がどの製品を購入したのかを把握できます。
縦に並んでいた購入商品は横に展開されているようなデータです。各商品の列は、購入したらT、購入していない場合にはFというデータです。これはフラグ形式のデータと言われており、Tは1、Fが0でも同じです。

クラスタリングのための必要なデータ

さて、クラスタリング分析を実施する前にこの形式のデータでできる分析を一つご紹介しましょう。このデータが何を意味しているのかというと一人の顧客がデータの期間中に購入した商品群のデータといえます。つまり、商品Aと商品Bは同時に保有されているということです。この会員IDを例えばPOSデータのレシートIDとして場合には、その時点でのバスケット(買い物かご)の分析を意味しており、購入時点で何と何が一緒に購入されるのかを把握することが可能です。これを可視化したものが、以下のWebグラフというグラフになります。今や伝説とも言えるビールとおむつのそうあれです。

Webグラフ

グラフの読み方としては、線が太くつながっている商品やアイテム同士が同時に購入されていることが多いことを示しています。このグラフで言えば、「果物・野菜」と「魚」、「冷凍肉」と「ビール」「缶詰野菜」が一緒に購入されているということが解明できます。

さて、これらの可視化は有効であるもの、顧客をグループ化する際には、クラスタ分析を行うことが良いでしょう。そこで、さきほどのデータからクラスタリングを行うことにしました。その結果、4つの顧客セグメントが抽出されました。でもまだこのクラスタから顧客の顔が見える状態にはなっていません。あくまでも商品分類からのクラスタですので、そこにどんな人が購入したか?という会員属性を加味してあげることでより理解を深めることができます。

クラスタ分析

さて、分析の結果、自社の優良顧客には主に4つの顧客層がいることが判明しました。購入金額が多い優良顧客といってもやはりさまざまな顧客がいるようです。
A社にも「定価でも購入する超優良顧客層」や「バーゲン製品だけを購入するチェリーピッカー」という顧客層がいることがわかりました。

なお、そのデータを時系列、月や年ごとに比較していくことによって、顧客層の遷移を理解することができます。バーゲン製品だけを買いあさるチェリーピッカー層が増えているということであれば注意が必要です。なぜならば、そのような顧客は価格が店舗の選定基準となっている場合が多いためです。他社が格安のバーゲンセールを行えば、すぐに乗り換えてしまう浮気性の顧客といえます。

なお、クラスタリングの手法としては、さまざまな手法があります。統計学をベースにしているもの、データマイニングをベースにしているものなどです。代表的なクラスタリング手法としては、K-MeansやTwo-Stepなどの手法があげられます。

最適なターゲットはどこか?:決定木分析によるターゲティング

さて、優良顧客について理解を深めた後は、いよいよ「どのターゲットに対してキャンペーンを打つべきなのか?」というステップに入っていきます。その際に便利な手法が、「決定木分析」です。過去の購入履歴と会員属性を組み合わせ、決定木分析を行うことによりキャンペーン対象商品のターゲット層を決定することが可能になります。決定木分析(デシジョンツリー)とは、データ内の顧客グループや購入パターンなどを樹木の形で視覚的に表現したものです。まさに木(ツリー)のような表現により分析を行います。

決定木分析によるターゲティング

この決定木(デシジョンツリー)は、一番上の段に、ある事象が全体で発生する確率が示され、その次の段には、統計的に意味のある項目が選択され設定されます。2段目のそれぞれの分類の集合は1段目となるように、それぞれのグループを統計的に意味のある範囲において分類していく手法を言います。この中から目標に合致する層を抽出し、ターゲットリストの作成などに活用します。主なアルゴリズムにC&RT、C5.0、CHAIDなどがあります。

おすすめのデータ分析製品

数多くのデータ分析ソフトウェアが存在する今、どのようなソフトを選択すべきでしょうか。
現在、市場には可視化を得意とするBIツールやセルフBIツール、統計解析やデータマイニングツール、そしてAI(人工知能)ツールなどが百花繚乱です。その中でおすすめのデータ分析ソフトウェアが「SPSS」です。

SPSSソフトウェアは、IBM社が製造・販売しているデータ分析ソフトウェアです。1968年、米国大統領選挙の浮動票予測のためのプログラムとして誕生した歴史と伝統のあるソフトウェアであり、世界中で代表的なデータ分析ツールといえます。
浮動票予測から生まれたSPSSは、現在、統計解析ソフトウェアのSPSS Statisticsや共分散構造分析ソフトウェアのSPSS Amos、データマイニングソフトウェアのSPSS Modelerの3つのデータ分析ソフトウェアから構成されています。データ分析に特化した製品群としては、非常に多くのユーザーが利用しているソフトウェアであり、信頼と実績のある製品と言えるでしょう。

IBM SPSS Modeler

その中でも、顧客分析をはじめるためにおすすめのソフトウェアが「IBM SPSS Modeler」です。
IBM SPSS Modelerは、データ入力からデータ加工、分析、展開までを行うことができる分析プラットフォームです。分析手順をマウスでつなぎ合わせることにより分析が可能なソフトウェアで、わかりやすい操作性が特徴です。しかしながら中身は、人工知能でも利用される最新の分析手法も搭載。パワフルにデータ分析を行うことが可能です。

SPSS Modelerではじめるデータ分析

さて、先ほどご紹介した新規顧客獲得のためのデータ分析をSPSS Modelerでは、どのように実行が可能でしょうか?

IBM SPSS Modelerを利用した優良顧客の特定

IBM社のSPSS Modelerには、POSデータなどからRFM分析を簡単に実行できる機能が標準搭載されています。この機能を利用すれば、RFMのそれぞれの項目、日付と金額とユーザーを特定するためのIDを指定するだけで、最終的には個々人のRFMスコアを算出してくれます。スコアが作成された後は先程のように平均や中央値を出したりとすればより詳細に優良顧客を把握することができるでしょう。

IBM SPSS Modeler
IBM SPSS Modeler

今回は「人」に特化した分析アプローチの中でも、新規顧客獲得におけるSPSS Modeler活用方法となります。